Catalystという役職とジレンマ 

グランマに所属するメンバーがそれぞれにつけるタイトル、要するに役職について。僕がはじめて入社した会社はヒラ社員には所属している部署名しか与えられないところで、ちなみに名刺には”営業1部営業3課”とかかれただけだった。営業マンであることはわかるが、それ以外は何も伝わらない。コミュニケーションをする職業として損をしているなーと思っていた。一方で社外で少人数のスタートアップによく見られる現象、代表以外のメンバーも全体の人数が少ないために、取締役だったり、COOという肩書きを担う現象。トップはその責任感と背負っているリスクが一番大きいと思うし代表を名乗るべきで、CEOと名乗るのはかっこいい。だけれども、2番手以降、特にそれほどの経験を積んでいないチームがそうやってあたかもすごいことをやっているかのようなタイトルを付けることに違和感とダサさを感じていた。個人の名刺で派手すぎるものは門外漢。引いてしまうことが多々ある、そういった世界では役に立つのであろうが、一般のヒトたちにはアレルギーが強すぎる。ちなみに、グランマは立ち上げて、ロゴもなく勢いで名刺を創ったので、最初の1年はなんの意図もないタイトル(役職)だった。

「事業統括コーディネーター」

統括するほどの事業ないなーって自分で自分に突っ込みを入れていたし、渡すときにはいつも自尊心を削られる。コーディネーターとかディレクターとかプロデューサーとかの違いもよくわかっていなかった。なんかいまいちだな、と自分でも思いながら名刺を渡り歩く日々。そんな中、2010年初冬、紹介で富士ゼロックスKDIのメンバーに出会った。今でもその方にはその当時以上にお世話になっている。最初に名刺を渡されたときは本当に衝撃だった。富士ゼロックスという硬派なイメージのある会社にも関わらず、名刺には『Happy Alchemist』と書いてある、直訳すると「幸せの錬金術師」。やられた!と瞬間的に感じた。名刺を渡すとき、一見普通の名刺なのに、よく見てみると、そのタイトルが少し変わっている、しかも自分のアイデンティティを示す、そしてかならず突っ込まれるが故、自分自身をプレゼンするチャンスが生まれる。なるほどと論理的な理解もあわせて行い、グランマでも取り入れることにした。

「Catalyst」

catalyst
音節cat・a・lyst 発音記号/kˈæṭəlɪst/
【名詞】【可算名詞】
1【化学】 触媒.
2促進の働きをするもの.
3相手に刺激を与える人.[CATALYSIS から]

僕が今、名刺にプリントしているタイトルである。講演会などにお呼ばれすることがたまにあるが、言葉だけ先走るとよくわからない、説明を加えれば(おそらく)一瞬で理解してもらうことができる。

2010年当時、名刺を渡した際に3つの質問をほぼ確実に聞かれた。

1.グランマってどういう意味(どういう経緯でつけられたの?)

→要するに多くの人はまるで老人ホームの名前かのように思っている。

2.なんで鴨川にオフィスがあるの?(今日はわざわざ鴨川から?)

→なんでそんな遠いところに、とわざわざありがとうございますとご足労し過ぎだろ!と。

3.ところでカタリストって何?(しゃべる人?語りスト?)

→そもそも意味がわからない、突っ込まざるを得ない。最近は徐々に説明することが面倒になってきて、「欧米でもこのタイトルの役職が増えていますよ」と逃げることが多い。最近は「Co-founder」を追加することにしている、実際に嘘偽りなくそうであることと、そちらのほうが面倒な説明を省くことでき、周りに迷惑をかけないから。

そもそも「Catalyst」というタイトルをつけた社会的な風潮及び認識とかなり個人的な経緯を綴りたい。ハーバード・ビジネス・レビュー2008年1月号に掲載された『Disruptive Innovation for social change』ではイノベーションには2つのカテゴリーがあると、『イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセンが語っている。 

(1)持続的イノベーション(Sustaining Innovations) 
(2)破壊的イノベーション(Disruptive Innovations)

その中で、Disruptive InnovatonsにはCatalytic Innovators(触媒的イノベーター)の存在が必要であると書かれている。では、触媒的イノベーターとはどのような存在か?5つの特質が本文に書かれていたので、引用した。

触媒的イノベータの5つの特質:
1. They create systemic social change through scaling and replication.

2. They meet a need that is either overserved (because the existing solution is more complex than many people require) or not served at all.

3. They offer products and services that are simpler and less costly than existing alternatives and may be perceived as having a lower level of performance, but users consider them to be good enough.

4. They generate resources, such as donations, grants, volunteer manpower, or intellectual capital, in ways that are initially unattractive to incumbent competitors.

5. They are often ignored, disparaged, or even encour- aged by existing players for whom the business model is unprofitable or otherwise unattractive and who therefore avoid or retreat from the market segment.

引用先:http://impact.sva.edu/core/wp-content/uploads/2010/06/hbr-disruptive-innovation-for-social-change.pdf

破壊的イノベーションは、旅行,通信やコンピュータ業界などの産業構造に大きな影響を与えており、しばしばプロセスの社会的変化をもたらしている。しかし、破壊的イノベーションによって引き起こされる社会変化、つまりSocial Changeは、実は「意図しない」ものであるらしい。ビジネス上では単にビジネスチャンスを追求するの副産物で破壊的イノベーションは生まれるのだが、触媒的イノベーションにとって、社会革新(Social Change)は本来の目的であるらしい。
(※英語の意味が難しい)

個人的な経緯としてそもそもハーバード・ビジネス・レビューの存在を知らずにCatalystというタイトルに決めた。その決定の経緯は高校時代に遡る。

N2(g) + 3H2(g) 2NH3(g), ΔHo = −92.4 kJ mol-1

ハーバー・ボッシュ法。空気の組成成分として、窒素(N₂)は80%、水素(H₂)は数%含まれている。空気中にあるだけでは、N₂とH₂は結合することはできないが、そこに特定の環境とそれを結び付ける触媒(Catalyst)この場合は酸化鉄を媒介させることで、アンモニア(NH3)を組成することができるようになった。この技術は世界を大きく変えた。糞尿が中心だった農作物の肥料に革命をもたらした。現在では、世界のたんぱく質源の3分の1がハーバー・ボッシュ法の恩恵を受けていると言われている。世界の人口が滞りなく増加したのはこの発見の恩恵が寄与しているとも言われている。ハーバーのは「空気からパンをつくった人」の異名を持っている。

触媒(Catalyst)そのもの単独で存在していては、自ら価値を生み出せない、だけれども、特定の条件下で価値のないものと価値のないものを繋げることで価値の有ることを生み出す、そのハーバー・ボッシュ法における触媒のようになりたい、化学反応を起こす人間になりたい、後からそう思った訳だが、その当時は触媒の存在に驚き、その発見に憧れた。同空間にあっても、単独では生まれない価値を、触媒(Catalyst)と特定の環境が存在すれば、新しい価値が発生する。それを実験室から社会をフィールドに変えた。実験室は社会、社会に存在する無数の素材。しかし、単一で存在して、結合しないままにいると価値のないものが多数存在する。僕はそれらを見つけ、化学式を創り、それを加速する触媒になりたい。そう思うと生きているのが楽しくて仕方がない。毎日が発見の連続。触媒(Catalyst)は僕の行動における大きな意味を持つメタファーだ。

さてさて、グランマの他メンバーもかなり独特のネーミングをしています。惟のグレートコミュニケーターは永遠のネタ、いや名誉となるでしょう。最近、ロナルド・レーガン元アメリカ大統領がグレート・コミュニケーターと呼ばれていたことで自信をつけています。タイトルを必死に考えたときよりも、考えた後に実際にそれぞれ名刺を渡すときが大変です。各メンバーが多くの人の怪訝な表情に出会ってきているはず、そのマイナスの状況をいかにプラスに転じることができるか、その自らのアイデンティティを武器に逆境を乗り越えてほしい、そしてもちろん僕もここでまとめたように嘘偽りのない価値を提供できるよう精進していきたい。

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2008年 01月号 [雑誌]
著者 :
出版社 : ダイヤモンド社; 月刊版
発行日 : 2007/12/10
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アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
著者 : パウロ コエーリョ、Paulo Coelho、山川 紘矢、山川 亜希子
出版社 : 角川書店 (1997/02)
発行日 : 1997/02

本日の気づき:書くことがきっかけで考える。僕はそういう人種であると最近、ようやく28年目にして理解してきた。尊敬するくらしの良品研究所の土谷さんのコラムにも。

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Naoki Yamamoto
1983年12月25日 石川県生まれ。野球漬けの高校生活を経て、北海道大学農学部に入学。「スノーボード、旅、読書」の三種の神器に明け暮れる。卒業後、システム会社に営業職で入社。 2009年株式会社グランマを立ち上げ。1年後に発展途上国の貧困層に必要なデザインやサービスを展示する「世界を変えるデザイン展」を六本木で開催、2万人を動員。2014年12月に退職し、現在無職。仕事の傍ら、ノンフィクション書評サイトHONZに参加中。