人間の安全保障とアマルティア・セン

アマルティア・セン。大学の図書室で本を手に取ってから、10年以上経過。その当時には出版されていなかった名書に向き合う。人間の安全保障というコンセプトを理解するため。それ以上に、含蓄のある本で、西洋的視座に犯されていた自分を知り、新たな見方と思考を身につけることができた。

四つの章と一つの解題に分かれている。
第一章 グローバリゼーション ー過去と現在
第二章 不平等の地球規模拡大と人間の安全保障
第三章 文明は衝突するのか ー問いを問い直す
第四章 東洋と西洋 ー論理のたどり着くところ
解 題 センの経済思想と文明思想

とりわけ、前半の3つに印象を受けた。
第一章では、グローバリゼーションを新しい現象とみなすことに反論し、過去数千年位わたって旅行、民族移動、交易、異文化接触などを通じて進み、影響を与えていたと解いた。また、グローバリゼーションがもたらしてきた恩恵について語り、人間を苦役から解放するために大きな力となったのは、経済の相互交流だったとしている。ただし、グローバリゼーションだけでは、世界の貧しい人々の経済的窮状の改善はできず、また、だからといってグローバリゼーションを拒絶することも誤りだとしている。重要な問題は、「経済と科学のグローバリゼーションがもたらしてくれる巨大な潜在機会を、より公平に配分すること」とし、第二章に移る。

第二章では、次の二点に焦点を当てている。
1.貧困と貧困者の不利な立場に関する従来の公式を超えた人間の安全保障をいかに確保するか、そしてその重要性
2.グローバルな配分の公費衛星を実現できる適切な公式の追求

まず、冒頭に小渕元首相の言葉引用されている。

人間は生存を脅かされたり尊厳を冒されることなく創造的な生活を営むべき存在であると信じています

これらは、一般的な不平等に対してではなく、弱者の立場に置かれている世界中の人々をさらに窮地に追い込むようなあらゆる危険に対して焦点が当てられている。ここでは、ヒューマン・セキュリティー欠如の問題と経済の成長・拡大がもたらす恩恵の配分の不均衡と不平等の問題とは区別する必要がある。なぜなら、経済成長の配分が公平さを保っていても、ヒューマンセキュリティの欠如は存在しうるという理由から。

グローバリゼーションが貧者にも恩恵をモら足すか否かを論ずるのは、正しい論争ではないと、センは主張し、立てるべき新たな問いは

グローバル化した経済的、社会的関係から創出される恩恵の配分方法を、グローバル関係、特にグローバル市場経済を壊さずに変更できるか

としている。この前提として、経済発展の機関車としての市場の制度や仕組みを廃止することは経済繁栄を放棄することになるとセンは考えている。

結論でも改めて

我々が問うべきは、グローバリゼーションの恩恵が容認可能な公正さで貧困層にも分配されているかどうかという問題、J.F.ナッシュの言う「取引き問題」なのです

第三章では、サミュエル・ハンチントンのベストセラー『文明の衝突』を引き合いに出し、その本の主題に隠れた前提条件、西洋文明が持つバイアスを批判し、「文明は衝突するのか」を全く間違った問いであると罵倒している。

センはこの中でアイデンティティを引き合いに出す。文明が地球上の人々を分類する唯一適切な方法であるわけでないとし、また、西洋優位の思考方法を批判した。そして、アイデンティティが複数あること、そしてどれを協調し、優先しようと、自己認識の選択権は私たち自身にあるということの重要性を説いた。宗教の信仰や文明の分類でのアイデンティティはそれが選ばれたものであろうと、単に受け継がれたものであろうと、人生を支配するものではない。そして、そのアイデンティティはなんとなく「見つける」のではなく、責任ある人間としてたような関係や所属の中でどれを優先していくかを決めていかなくてはならないと諭す。

そして、結論でまとめると

人類の共通項にどのようなものがあるかは重要であり、絶えず念頭におく価値のあることでありますが、私たちの多様性が多面的であることこそ、せかいを 一つにするときに欠かせないものなのです。私たちは互いに同じではないかもしれませんが、互いの異なり方もまた様々なのです。

その他、過去に読んだセンの書籍をリストアップ。最初は名前からして、ずっと女性だと思っていた、今や懐かしい恥ずかしい思い出。

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